肥満

肥満を治療する必要はあるのか?

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肥満を治療する必要はあるのか?

 

標準体重以下の痩せる必要のない人がダイエットに励んでいる一方で、医学的に減量が必要と考えられる肥満症であっても放置し、暴飲暴食を続ける人がいるのも事実です。

彼らの言い分としては、「身体に不調を感じないから、痩せる必要はない」ということだそうです。

たしかに、肥満はあくまで「脂肪組織に中性脂肪(TG)が過剰に蓄積した状態」を示しているにすぎず、直ちに病気として取り扱い治療を開始するものではないという見方もあります。

 

「たとえ短命であっても、好き放題にできる人生にしたい」と言われてしまったらそれまでですが、

自分の子供が成長する姿や、家族が増えていくのを見ることができないのは非常に残念なことに思います。

 

肥満を治療する理由

医学的に肥満を解消する目的は、糖尿病や心血管疾患などの生活習慣病をはじめとする、11 疾患ある肥満関連疾患を予防することにあります。
肥満が原因で生じる11個の合併症

 

肥満、特に「内臓脂肪型肥満」と「糖尿病(耐糖能異常)」や「脂質異常症」、「高血圧」を合併した状態は、メタボリックシンドローム(代謝異常症候群)といい、心血管疾患などの健康障害を伴いやすい高リスクの肥満であるため、減量が強く推奨されます。

メタボリックシンドロームの根本的な原因となっている肥満を解消することは、生活習慣病の予防に直結し、肥満に起因する複数の疾患を全体的に改善させます。

 

では、具体的に、減量治療を開始しなければならない基準というのはあるのでしょうか?

減量治療が必要となる場合

減量が必要とされる場合とは、基本的には「肥満症」の診断となる場合、つまり以下の1の肥満判定をされた人の中で、2または3にも該当する場合です。

  1. BMI 25 (kg/m²)以上 (=肥満の判定)
  2. 肥満に起因ないし関連する健康障害を合併する
  3. 内臓脂肪型肥満(腹部CTによる内臓脂肪面積 ≧ 100 cm2)

ただし、BMIは身体の水分や骨、筋肉量などの脂肪組織以外の重さも反映してしまいます。

むくみや便秘、筋肉が多い人と少ない人など、個々の身体の状態によっては正確な体脂肪量を反映することは困難となるので、その評価には注意が必要です。

 

一方で、BMI 25 kg/m²未満であっても内臓脂肪型肥満の人は高リスク肥満の扱いとなり、治療を検討しなければならないこともあります。

肥満治療の本来の意義は、単純に外見を整えて肉体美を手に入れることではなく、よりクリティカルな部分で「合併症を予防する」というところにあります。

特に、日本人は欧米人と比べて軽度の肥満であっても健康障害につながりやすいという報告があり、肥満を軽視せずに適切な治療を受ける必要があります。

 

 

致死的な肥満とは

 

重症、高度な「病的肥満症」は致死的となります。

重症肥満、高度肥満、病的肥満という言葉は、概ね同義として使用されますが、これらは、必ずしも治療の困難度、合併症の数や重症度を意味するものではなく、あくまで肥満の程度(BMI の大きさ)から判定されます。

肥満外科的な観点では、BMI ≧ 40を重症肥満、40 ≦ BMI <50を病的肥満、BMI ≧ 50 を超肥満と呼ぶ場合もあります。

 

BMI 35 kg/m2以上で高度肥満と判定されても、例えば若年の力士で合併症が生じていない場合などはもちろん高度肥満に伴う肥満関連疾患のリスクなどは厳重に説明しますが、職業柄ということもあり減量治療の対象とはなりません。

したがって、高度肥満の中でも医学的な観点から減量治療が必要な対象を選び、「高度肥満症」と診断する必要があります。

 

なお、高度肥満症の患者さんでは、睡眠呼吸障害、心不全、腎機能障害、皮膚疾患、運動器障害、精神疾患などは特に注意が必要と言われています。
肥満が原因で生じる11個の合併症

 

 

「内臓脂肪型肥満」が悪いとされる理由

 

「内臓脂肪」の本来の意味は、消化管から肝臓に至るまでの血管の通っている、腸間膜や大綱と呼ばれる部位に付着している脂肪組織のことをいいますが、便宜上は内臓全般に付着する脂肪組織 (厳密には「異所性脂肪」といわれる部位)を含めて使用されることが多くなりました。

内臓脂肪は、皮下脂肪に比べて脂肪の合成や分解がされやすく、飢餓状態に備えて貯蔵している中性脂肪(トリグリセリド:TG)を分解し、遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールとなって、門脈を介して肝臓に供給されます。

 

内臓脂肪の分解によって過剰に生じた遊離脂肪酸とグリセロールが肝臓に流れることで、糖代謝や脂質代謝の異常につながることが示唆されています。

また、内臓脂肪の蓄積によって血中のブドウ糖が細胞や組織に取り込まれにくくなるという「インスリン抵抗性」という状態を引き起こし、それによって生じる高インスリン血症は腎臓でのナトリウムの再吸収や交感神経系の亢進を引き起こすため、血圧の上昇につながると考えられています。

 

アディポサイトカインが生活習慣病を引き起こす?

脂肪組織はアディポサイトカインという生理活性物質を分泌しており、内臓脂肪が蓄積するとアディポサイトカインの産生異常が起こり、これが動脈硬化を進行させ、様々な生活習慣病の発症につながることが示唆されています。

 

肥満の人の身体は常に炎症が起きている?

肥満の人の脂肪組織では、酸化ストレスや、炎症性サイトカインと呼ばれるTNF-α、IL-6、飽和脂肪酸や、ケモカインと呼ばれる生理活性物質が産生・分泌されています。

これらは、脂肪組織において慢性的な炎症状態を作り出していますが、重症になると脂肪組織だけでなく全身へ炎症が波及し、全身が慢性的なストレスにさらされることとなります。

炎症反応は活性酸素を産生し、血管や内臓の機能を低下させ、加齢の大きな原因となります。

 

内臓脂肪型肥満では、アディポサイトカインの一種で抗動脈硬化・抗炎症・抗糖尿病作用をもつアディポネクチンの血中濃度は低くなり、

酸化ストレス指標や、血栓形成の原因となる血中プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1)濃度は高くなるとの報告があります。

また、一般的な炎症マーカーとして用いられるCRP(C-reactive protein: C反応性蛋白)は、風邪をひいたときや各種感染症に罹患したときなど身体のあらゆる炎症反応によって上昇する項目ですが、肥満症患者さんは明らかな感染症がなくても日常的にCRPが上昇している場合がしばしば認められます。

 

しかし、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて運動療法による効果が得られやすく、体重の減量によって減りやすいと言われています。

肥満症患者さんの減量前後で撮影した腹部CTで評価すると、皮下脂肪よりも内臓脂肪が大きく減少することは一目瞭然であり、内臓脂肪の減少に伴って血液検査や血圧などの数値が全体的に改善することは、患者さん自身にも実感していただけます。

 

 

隠れ肥満とその危険性

 

BMI 25 kg/m2未満で「肥満」と判定されなかった人の中にも、過去の研究結果より将来的に合併症を発症する確率が高いと考えられる高リスクの人々がそれなりの人数を占めることがわかり、このような病態は「隠れ肥満」と呼ばれています。

「隠れ肥満」を診断することで、非肥満者であっても内臓脂肪の蓄積と相関して、心筋梗塞や狭心症など冠動脈疾患のリスクが上がることを注意喚起しています。

 

我が国ではBMIに関わらず、ウエスト周囲径などから内臓脂肪の蓄積が疑われ、糖代謝異常、脂質代謝異常、血圧高値の2つ以上の危険因子を持つ場合に、「メタボリックシンドローム」と診断し、「隠れ肥満」のスクリーニングを行えるようにしました。

 

「死の四重奏」とは

メタボリックシンドロームは動脈硬化性疾患の多重危険因子症候群であり、「死の四重奏」とも呼ばれています。

メタボリックシンドロームの治療では、個々の病気の治療のみならず、危険因子を総合的に捉え、根本的な原因となっている内臓脂肪を減らすことによって、動脈硬化性疾患の予防を図ることが重要です。

 

 

骨や心臓にも脂肪が貯まる「異所性脂肪」とは?

 

皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織以外に蓄積する脂肪のことを「異所性脂肪」といいます。

摂取エネルギー量が過剰になると、身体は余ったエネルギーを中性脂肪として身体に貯蓄するように働き、肝臓、骨格筋、膵臓、心臓や血管の周りなど、脂肪組織以外の臓器にも脂肪が蓄積するようになります。

特に、各臓器の細胞内部(実質細胞内)に脂肪が蓄積した場合は、内科的疾患の発症と関連が強いと言われています。

インスリンを分泌している膵臓のβ細胞の細胞内部に脂肪が蓄積するとインスリン分泌能が低下し、肝臓や骨格筋の細胞内部に脂肪が蓄積するとインスリンの作用が効きづらくなる(インスリン抵抗性の増大)と言われています。

 

肝臓への脂肪蓄積と脂肪肝

肥満症では、内臓脂肪の分解によって過剰に生じた遊離脂肪酸が肝臓に流入したり、食事から摂取した脂質や糖質の過剰な摂取および吸収の亢進、肝細胞での脂質合成の亢進、脂肪酸の酸化障害、コレステロールの一種であるVLDLの分泌障害などによって、肝細胞内に脂肪の蓄積が生じると言われています。

「脂肪肝」とは、病理診断によって5%以上の肝細胞内に脂肪化の所見が認められる状態のことをいいます。

日本人は軽度のBMI増加であっても肝臓に脂肪が蓄積しやすいといわれており、

特に「非アルコール性脂肪肝(NAFLD)」は、1日あたりのアルコール摂取量が男性 30 g/日以下、女性 20 g/日以下であるにも関わらず脂肪肝を認める状態であり、肥満症の多くの人に該当する病態です。

 

肝臓では糖代謝や脂質代謝を行うため、脂肪肝があると糖尿病や脂質異常症の発症につながります。

また、脂肪肝を放置すると肝硬変へ進展したり、肝細胞癌の発生母地となる危険性があるため、脂肪肝の段階から減量治療を始めることが重要です。

肝細胞における脂肪蓄積は、摂取エネルギーの制限による体重の減量に伴って速かに減少し、糖代謝や脂質代謝を改善するといわれています。

 

骨格筋への脂肪蓄積

骨格筋細胞内への脂肪蓄積は、内臓脂肪の蓄積に伴う遊離脂肪酸の流入の増加や、脂質の過剰な摂取や身体活動の低下によって生じると言われています。

余った血中のブドウ糖は筋肉にも取り込まれるため、肥満の人では骨格筋細胞内への脂肪蓄積によってインスリン抵抗性を生じ、糖尿病の発症につながるといわれています。

しかし、インスリン感受性の高いと思われるアスリートの骨格筋細胞内にも脂肪蓄積が見られることがあり、「アスリートパラドックス」と呼ばれ、まだ解明されていないこともあります。

 

骨格筋細胞における脂肪蓄積は、摂取エネルギーの制限のみでは有意に変化しない場合が多いとされていますが、有酸素運動の併用により減少し、インスリン抵抗性を改善すると言われています。

 

膵臓への脂肪蓄積

インスリンを分泌している膵臓のβ細胞の数は、20歳頃まで増加すると言われています。

膵臓のβ細胞内への脂肪蓄積は、その脂肪毒性によってβ細胞の数を減らすことでインスリンの分泌能が低下し、糖尿病の発症につながることが示唆されています。

糖尿病の発症初期は、高血糖を是正するために膵臓のβ細胞は肥大化し、インスリン分泌を亢進させて高インスリン血症をきたしますが、徐々に膵機能は疲弊していき、β細胞の減少と機能低下を生じると、身体はインスリン依存状態となってインスリン治療が避けられなくなります。

 

心臓や血管への脂肪蓄積

心臓の周りや大動脈などの大血管の脂肪蓄積は、内臓脂肪の蓄積とは独立して心血管疾患の発症リスクになると言われています。

これは、大血管や心臓周囲に蓄積した異所性脂肪組織において炎症反応が生じることで、動脈硬化の原因となる血管プラークの形成が進行するためと考えられています。




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